いけずのいけす

すっきり整った暮らしを夢想するアラサーゆるゆるオフィスレディです。

手仕事の楽しさ

あとほんの、0.1mm。繊細な作業に集中している顔は美しい。

 

先日、絵画修復の体験教室に行った。午前中は座学、午後は体験という構成で6時間。体験では絵画の欠損を埋めたパテを削り、その上に着彩する作業を練習板を使って行ったのだが、これが面白い。剃刀のような道具を右手に、凹凸を浮き上がらせるための小型ライトを左手に、指先で起伏を感じ取りながら少しずつ削っていく。毎日の仕事では全くやらない完全なる手作業、しかもコンマ何mmといった繊細な感覚を必要とするそれは、長らく眠っていた神経回路を使ったようで、終わった後には心地よい疲労感が残った。


自分の手を使って、まさに何か価値のあるものを生み出すという仕事に憧れる。現代社会において、それで身を立てることの困難さを思うと尚更だ。一般に、手よりも頭をメインで使う職業の方が、実態のある物よりも概念を扱う職業の方が、得られる報酬の額が多い。それは別に現代に限らないことだと思うけれど。


さて、日常生活で一番身近な職人は美容師だと思う。一通り切り終わって鏡を見せられ、わたしが「すごいいいですね〜」なんて言っている横で、美容師さんは私の方をじっと見つめ、前から横から、僅かな調整を繰り返す。そのときの真剣な眼差しからは「このお客さんを可愛くしてあげよう!」というようなサービス業的気持ちではなくて、もっと真摯に「自分の作品の完成度を出来うる限り高めたい」という職人的な意気込みを感じる。

ひりつくような雰囲気の中で髪を切られながら「完成間近の作品はこういう気分なんだろうな」と感じるその瞬間は、普段と違う視点で世界を見る面白さがあり、美容院に行く醍醐味の一つであるとすら思うのだった。