いけずのいけす

すっきり整った暮らしを夢想するアラサーゆるゆるオフィスレディです。

デジタルデトックスしたところで

生活を送るうえでは空白の時間というのがしばしばある。ATMに並んでいるあいだ、飲食店で料理が来るまでのあいだ、エレベーターに乗っているあいだのような。何をするでもなく、ぼんやりとしている時間。

ただ、今はそんな数十秒のあいだにすら、スマホを見ている人が多いなあと思う。スマホは人類から空白の時間を奪ったのだ。

5月の連休、青森県のランプの宿 青荷温泉というところに行った。名前の通り明かりがランプしかないところで、部屋には電気機器やコンセントが無く、山奥すぎて電波も来ない。デジタルデトックスせざるを得ない環境にある温泉宿で、前から行ってみたかった場所だった。

夕食を食べたあと、すっかり暗くなったなかを4ヶ所ある温泉の一つに向かった。扉を開けてすぐまず脱衣所の暗さに驚き、浴室にシャワーもカランも無いのに驚き、仕方ないからかけ湯をして湯船に浸かって、その安らぎに驚いた。

湯気の向こうでランプが仄暗く空間を照らしているが、なにぶん暗いので全てが詳らかでなく、余計な視覚情報が削ぎ落とされて、ただ心地よさだけがある感じ。

ちょうどほかに人が居なかったこともあり、凪のように穏やかな入浴を堪能できた。

部屋に戻る道は暗く、戻っても部屋の中も同じくらい暗く、そんな暗い中で活動するのは難しく、なんのことはない、夜は本来休むべき時間なのだなと素直に思わされて、身体も自然と休息モードに入る。部屋の裏手を流れる渓流の水音を聞きながらぼんやりとしていると、時間がゆっくりと過ぎていくのを全身で味わえる。

温泉には朝も入ったが、ランプの明かりは同じなのに空間は晴れ晴れと明るく、太陽光の偉大さをしみじみ感じて、夜とはまた違う良さがあった。

そんな調子でわたしはこの宿を非常に気に入った一方で、一緒に行った友人2人は退屈だったようだ。普通ならなんとなくスマホをいじっている間に時間はどんどん流れていくが、なにぶん電波が来ない。それでもマップを開いてみたり、電子書籍を読んでみたりしていたようだが、やれることに限界があると悟ると睡眠に移行していた。何をしたらいいか分からない、という感じだった。

スマホは人類から空白の時間を奪った。それだけでなく、空白の時間を過ごす力をも奪ったのだ。