いけずのいけす

すっきり整った暮らしを夢想するアラサーゆるゆるオフィスレディです。

日陰だまり

うだるように暑い晴れた日、信号が変わるのを待つ人々が、横断歩道から少し離れた日陰にたまっていることがある。効率を考えるなら横断歩道ギリギリまで近寄って待った方がいいのは誰しもがもちろん分かっているが、照りつける太陽の熱のしんどさの前に効率という概念は無力だ。誰が始めたわけでもなく、道路から離れた中途半端な位置の日陰で、サラリーマンが、学生が、ベビーカーを押すお母さんが、集まってじっと暑さをやり過ごしている光景は面白い。普段ならなかなか観測できない、非常に動物的な行動だと感じるからだ。年齢やパーソナリティが異なっていて全く共通点のない人同士が、暑さという外的要素に晒されると同じ場所で同じ行動を取るのを見ると、どの人間も等しく動物なのだとしみじみする。


だいぶ前だが同じくうだるように暑い夏の日、公園の木陰に鳩が集まって座っているのを見たことがある。なるほど鳩も暑いと感じるのだなとその時は思った。信号待ちをする人々を見て面白いと感じるのは、この時の鳩の様子と被って見えるからかもしれない。


翻ってこんにちの街角、人は健気に日陰で暑さをしのいでいるが、同じ日陰に鳩は居ない。よく見ると、真夏の真っ昼間に炎天下で活動している生物は人間くらいで、他の生物はそもそもそんなに暑い時間に表に出てこないのだ。なるほどよっぽど賢い生き方である。都会では日中活動してもほとんど蚊に刺されないが、それは都市が清潔だからとかじゃなく蚊が動き回るにも暑すぎるからだろう。


危険な暑さの中、なおも孤独に頑張る人間のなんといじらしいことか。

もう少し利口な選択をしてもいい頃合いだろう、と信号を待ちながら思った。